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石巻NPO日和バックナンバー Vol.020

「ありたい暮らし」をかたちにできる社会のために

高齢化とともに要支援や要介護の方の数は年々増えており、今後は団塊世代が70歳代に入ることで急激な増加が予想されています。要介護者のご家族など、介護に当たる方は働き盛り世代で会社の中核を担う方が多く、職責ゆえに仕事と介護の両立が困難となり退職に至るケース、いわゆる「介護離職者」の増加も問題になっています。

石巻市河北エリアに拠点を置き、地域住民を巻き込んで介護予防に取り組む活動を行っている「一般社団法人りぷらす」が始めた新しい取り組みは、そんな介護離職者を減らし、介護する側もされる側も「こうありたいと思う暮らし」の実現に、一歩踏み出せるような支援を目指しています。

 今回はりぷらす代表の橋本 大吾さんと、仕事と家族の介護の両立に悩む方を現場で支えている「ワーキングケアラーサポートコーディネーター」の千葉 久美さんに、介護離職者を減らすための新しい取り組みについてお話しを伺います。

 以前、りぷらすさんのリハビリ型デイサービス施設「スタジオぷらす石巻」(石巻市相野谷)にお邪魔したときは、近隣の方々に介護予防の体操を教える講座を行っていましたね。

 橋本:「おたから(おたがいカラダづくり)サポーター」養成講座ですね。体操を覚えて自らの介護予防に活かすだけでなく、それを地域の人に伝えるスキルを身に付け、自らがサポーターとなってまわりの方に体操の仕方や知識を伝え広げるための講座です。そうやって、自分達の地域の方々を元気にし、地域の力で要介護状態を予防することを目指しています。

講座に参加し「おたからサポーター」になった方に伺うと、体操の効果もさることながら、他の方に伝えることが新たな生きがいになったり、人との繋がりができたりと、精神面に良い効果が出ているようです。

また、各地域のサポーターが自分達で参加者を募り場所を探して、受講者、サポーターの輪をどんどん広げているのも、この事業の特徴ですね。

 

なるほど、受講者が自身の介護予防をするだけでなく、自ら指導する立場となり、自主的に周りの方へ介護予防の取り組みを広げていっている・・・素晴らしい取り組みですね!

それでは、本題に入ります。りぷらすさんの新しい事業「訪問健康見守りサービス〜想いの架け橋〜」について伺います。先ずは、このサービスを立ち上げた背景を教えてください。

橋本:要介護者は全国的に増えていますが、石巻圏は震災の影響もあり、増加の割合は全国の約1.5倍と急増しています。原因としては、震災による急激な役割の変化や、家族との交流時間の変化が大きいと思います。また医療・介護に対する情報不足などで病気の早期発見や予防が出来ず、また発見してもどうしたらいいかわからず、結果的に要介護状態になってしまったケースが多いと感じています。そして、それら進むと家族の介護うつや、介護離職に繋がってしまいます。

親と子がお互いに伝えたくても伝えられない思いを、私たちが「架け橋」となって伝えることで、介護する側は介護離職防止、負担軽減に繋がり、される側は遠慮して伝えにくい自身の想いを伝えることができるようになります。そのような理由で、今年の7月からこのサービスを始めました。

 

サービスの内容を教えてください。

橋本:石巻市内在住の満70歳以上の方を対象とした、介護保険適用外のサービスです。

遠方で離れて暮らす親が心配だがあまりコミュニケーションが取れていない、一緒に暮らしているがなかなか話す機会がない、そんなお悩みを抱えているご家族の代わりに、専門性を持ったスタッフが月一回から定期的に利用者様のご自宅を訪問するものです。

離れて暮らしていると親の状況が分からず、病気などの変化に対する対応が遅れてしまいます。そこで、国家資格を持ったスタッフが、利用者様とご家族の間になって、コミュニケーションや健康状態の確認をします。

内容としては、健康状態や生活状況の確認、生活習慣の聞き取りなどを行い利用者様に変化がないかを確認し、毎月レポートとしてご家族に共有します。また、ご本人の思いを実現できるような生活トレーニングや、社会的な孤立の予防、改善を目的として地域との交流作り、服薬確認なども行います。医療行為や家事などの直接的な支援は行わず、「その人らしい暮らし」ができるように、寄り添いながらサポートします。

千葉さんは、仕事と介護の両立に悩む方のコーディネーターとして現場でご活躍されていますが、以前はどのようなお仕事をされていたのですか?

千葉:准看護師の資格があり、在宅介護支援センターに4年間勤務し、またデイサービスの生活相談員や保育所勤務の経験もあります。医療、介護、保育の現場を経験してきたのですが、仕事と介護、あるいは育児と介護のダブルケアに悩む方をたくさん見てき

ました。

実際に利用者の方と接してみて、どのような支援が必要だと感じていますか?

千葉:当初は離れて暮らしている方たちのためにこのサービスを始めたのですが、実際には自宅の距離は関係ないことに気がつきました。一緒に住んでいても普段元気なうちからお墓や保険の手続きなどの話はしていない人たちがほとんどで、親は頭の中で人生の最終段階のことなど考えているのですが、子どもからすると縁起が悪いから嫌がるんじゃないか、またあまり考えたくない、などという理由からつい後回しになってしまうパターンが多いようです。また、老いてくると子どもに遠慮して自分の思いが言えず、自分がしたいことではなく家族の意向に合わせてしまうため、抑圧されてしまうことが多いようです。

また、子どもの「親に健康になってほしい」という思いが、時として親にとって負担に感じてしまう場合もあるようです。子どもにも心配掛けたくないが、がんばれないときもある。

そういった子どもと親のすれ違う「想い」を第三者が繋ぐことで、これからの人生に必要なコトにつなげています。

 利用者の方から本音を引き出す際、気を付けていることはありますか?

千葉:どんな些細なことでも話しても大丈夫なんだ、と思ってもらえるような雰囲気作りを心がけています。内容は後からこちらで整理するので、先ずは何でも話して欲しいと思っています。初めは警戒されることもありますが、あるキーワードをきっかけに堰を切ったようにお話をしてくれる方も多いです。

否定も肯定もせず、傾聴を心がけて聞く姿勢を崩さないようにしています。介護保険が適用されないサービスですが、じっくりお話を聞けるというのは強みだと感じます。

サービスを通じたエピソードなどありましたら、教えてください。

千葉:脳卒中を経験された男性利用者の方なのですが、発症したことがきっかけでより家族の絆が深まったようです。ご家族の「お父さんに健康になってほしい」という気持ちが強く、離れて暮らすきょうだい達も含めてみんなで協力してくれています。また、サービスを開始してから男性の奥さん自身も健康への意識が高まり、一緒になって運動をされています。

また、ご家族の関係が改善されることで、自然と自分から台所に立ち、料理をすることが多くなった高齢者の方もいます。娘さんがお母さんを奮い立たせる意味で普段言っていた言葉が、実はお母さんにとってはプレッシャーになっていたようです。料理をする自信を無くしてしまっていたのです。トレーナーがお互いの思いのすれ違いに架け橋をしたことで、以前行なっていた料理ができるようになり少しずつ自信を取り戻していったと同時に、ご家族全体がより良い関係につながりました。

「仕事と介護の両立」のための相談会も開催していますよね。

千葉:無料の相談会を定期的に開催しています。今まで受けた相談のうち、約3割の方が利用に繋がっていますが、親が元気なうちではなく、本当に大変な状態になってから利用に至るケースが多いです。もっと元気な段階で相談に来ていただければ、予防へのアドバイスも出来るのですが、日々の仕事や生活で忙しく過ごしていると、介護予防や準備の優先順位は低くなってしまうようです。

今は市内の子育て支援NPO団体と協働して、子育てと介護のダブルケアの講座も開催しています。若いお母さん達も介護を身近な問題として捉えている方も多いです。

一般社団法人りぷらす 右から千葉久美さん 橋本大吾さん

それでは最後に、このサービスの目指すところを教えてください。

橋本:りぷらすのミッションでもあるのですが、高齢の方も子どももそれぞれが自身の「ありたい暮らし」を形に出来る社会を目指していて、このサービスがその実現に向けての一歩になればいいと思います。

千葉:介護する側もされる側も、自分らしい人生を生きてほしいという願いがあります。特にご家族の介護をされている方は、つい自分が我慢すればいいと思ってしまう人が多いのですが、本当に大変なときは声をあげることが大事です。今月、来月も相談会を開催しますので、介護で悩んでいる方、将来の介護に不安な方はぜひお気軽にお問合せ下さい。

橋本さん、千葉さん、ありがとうございました!